藤井画廊 第12回

ハァ~ッとため息が漏れる。ついに! ようやく! この絵にサインを入れたのだ。つまり絵が出来上がったということだ。

通常、自分の絵にはサインとともに年号を入れるが、この絵には入れなかった。なぜなら、いつから描き始めたのかも分からないくらい年月が経っている。描いては放置……を何度も繰り返した。もともとこの構図で水彩画を描いていて、同じ感じに油彩で描こうと思ったのだが、案の定そのままにはならなかった。絵は気分で変わる。油彩で仕上がりはしたが、自分の中ではその時点が完成とも思えなかったので、年号を入れるのをやめたのだ。

なぜ絵に年号を入れるのか。まずは自分のためである。後で見た時に、いつのものか、何歳の時に描いたのか分かった方が面白いからである。もちろん観る人も、年号があることで時代背景や自分の年齢と照らし合わせてもらえるだろう。でも、あえてこの絵には入れなかった……まぁ、これも作家の気分だ。

絵のモチーフは女性である。洞窟のような不思議な場所に横たわり、なぜか全身いたるところが燃えている。この女性、実は人間ではなく、ハワイ諸島の神話に登場する火山の女神ペレ(Pele)だ。とても気が荒く、嫉妬深い女神らしい。

とはいえ、最初からペレを描くつもりだったわけではなかった。描き進めるうちに、なぜか背景が洞窟になり、なぜか水が流れ、なぜか鉱物が現れ、なぜか火を吹き出したのだ。これは活火山の中にある洞窟だなぁ~。もうこうなったらこの女性は火の神様にするしかない。仏教だと不動明王が背中に炎を背負っているが、不動明王は男神。女性の火の神として思い浮かんだのがペレだった。「そうだ! この女神はペレだ!」と、それからペレを想定して仕上げていった。最初は白人女性を描いていたが、やはりペレならポリネシア系だろうと肌の色を濃くした。それならもう少しふくよかでもよかったなぁとも思ったが、体型はもう変えられない。むしろ、このやや細長くて人間離れした体型が女神らしいじゃん!と思うことにした。この胴の長さだと足はさらに長く、身長は2.5mくらいありそうだ。ハワイの人に”She is Pele.”と言ったら”Oh!! Pele!”とすぐに通じるだろう。ひょっとすると”I want this!”と買ってくれるかもしれない。

これまで数多く描いた女性の絵画の中でも、五本の指に入るくらい摩訶不思議な絵になった。このペレ、どんな場所に掛かっているのがいいのだろうか……。ハワイの知人でも結婚したら、ベッドルームにプレゼントするか?! ふたりの愛が燃え上がるようにね。