FF SPECIAL INTERVIEW

ずっと、ラブソングと生きてきたんだよね

2022年、十音楽団に還暦ライブRED PARTY、そしてF-BLOODと、さまざまなステージで魅了してくれたフミヤ。
シングル&アルバム『水色と空色』の発売もあり、ファンとともに充実の一年を駆け抜けてきた。
その感動と興奮も冷めやらぬうちに、デビュー40周年の2023年がやってくる。
F-BLOODツアー進行中のフミヤに、近況そして次なる「Special LoveSong」ツアーについて語ってもらった。


●思い描いていた“ゆるい兄弟”が実現
〜F-BLOOD 25th Anniversary TOUR 2022〜

———F-BLOODツアーも終盤に入りました。

F:コロナで延期になっていたツアーがようやくできて、本当によかった。当初、“ゆるい藤井兄弟”的な雰囲気でやりたいって言ってたじゃん。でも、いざ候補曲を並べてセットリストを作っていったら、内容的には全然ゆるくなかった(笑)。まあ、ライブとMCのギャップがあってもいいというか、F-BLOODってそういうもんだなと。ゆるめのMCコーナーを中盤に入れる想定をしていたんだけど、何公演かやるうちに最初のMCから尚之がどんどんしゃべり出して、ことのほか長くなってきた(笑)。結果として、俺が思い描いていた“ゆるい藤井兄弟”という形になったんだよ。フロントが二人だから俺もリラックスできるし、やってて楽しい。みんなには、演奏でもMCでも楽しんでもらえればいいなと。

———MCは客席の皆さんも毎回楽しみにされているようです。あと、今回は座席がある分、よりしっかりと楽曲やステージ全体像を味わうことができますね。

F:そうだね。スタンディングはスタンディングにしかない勢いがあっていいんだけど、今回は、よりコンサートらしい感じで味わってもらえていると思う。俺はユニットとして、それぞれの役割とバランスを大事にしてる。例えば間奏は尚之がサックスを吹いたりする見せ場だから、俺はあんまり目立たないようにしたり。もちろん曲によってはコーラスやタンバリンに徹する。ちなみに俺のタンバリンは、ただのお飾りじゃなく、曲に必要な本気のパーカッションとして演奏してるからね(笑)。引き続き、最後までいいステージを届けていくよ。

———12月25日の公演はライブ配信も決定したので、ぜひ全国からご覧いただきたいですね。会報では、後日あらためて兄弟お二人でのインタビューもさせていただきます。

●聴き込んでからツアーに来てほしい
〜アルバム『水色と空色』〜

———11月にソロアルバム『水色と空色』がリリースされ、こちらも好評です。

F:俺の場合、comu comuでみんなの感想や反応を直接知ることができるのが、ありがたいし面白い。今回のアルバムはスタンダードなラブソングかつポップスだから、すごく聴きやすいと思うよ。聴けば聴くほど浸透するから、ぜひ聴き込んでからツアーに来てほしいね。前の「大人ロック」や「フジイロック」は、より“藤井フミヤのアルバム”という意識が強かった。でも今回は自分自身の等身大を表現するというよりも、プロデューサー的に、それぞれの曲がベストな形になるように歌い手や登場人物を想定して作った。だから歌い方に関しても、作品の魅力を伝えるために、いかに綺麗な声で歌えるか?と考えたんだよ。俺の声をいろんな調理法にアレンジしてみた感じ。目の前にある鯛を、焼き魚にするのかクリームパスタにするのか、みたいな(笑)。いろんな楽曲を通して、藤井フミヤの歌声を楽しんでもらえればと。実は音楽というのは、ビジュアルを見ずに音や歌を聴いただけでは、どんな人が演奏したり歌っているか分からない。だから意外と年齢があんまり関係ないんだよ。とくにオペラ歌手なんて声だけで年齢は分からないし、実際に舞台でも若い日から晩年まで演じたりするじゃん。さらに楽器だけなら、演奏者が若者だろうがおじさんだろうが分からない。ポップスもそういう扱いになればいいのにと思うよ。まあ、アイドル系はどうしてもビジュアル重視だけどね。

———たしかに、昔は最新の人気アーティストを見たり知ったりするのは主に歌番組や雑誌で、ビジュアルが切り離せませんでした。時代とともにメディアもアーティストのあり方も変化し、多様化しています。

F:音楽が配信になったり、YouTubeが出てきたことが大きな変化だよね。今はもうサブスクが主流で、たまたま耳にした曲がいいなと思ったら気軽に聴くことができる。だから今の時代、何がどの年代に響くか、何がきっかけで耳に届くかは読めないんだよ。それこそ、20代の子が俺の曲に出会うこともあるし。だから、今回のアルバムでいろんな世代の主人公を描いたことは、結果として現代の音楽の聴き方に合っていたとも言えるかも。もちろん俺のメインのファン層は40代50代が多いけど、別にラブソングって特定の年代に向けて書くものではないからね。恋愛で感じることは年齢を問わず共通するし、初々しい気持ちを歌ったものが響いたりもする。俺が還暦だからって、人生や哲学的な歌ばっかり歌うのも違うしさ(笑)。とにかくいろんなタイプの曲があるから、いろんな人に届けばいいなと思ってるよ。アルバムもツアーも。

ぜひカップルでも来てほしい
〜CONCERT TOUR 2023 Special LoveSong〜

———では、アルバム『水色と空色』を軸とする、2月からのツアーについて教えてください。

F:ツアータイトルは「Special LoveSong」。これに決めたのは、とにかく誰が見ても中身が分かりやすいから。街でポスターを見ても「藤井フミヤがラブソング、しかもスペシャルって言うんなら、TRUE LOVEもAnother Orionも聴けるコンサートなんだろう」って想像できるじゃん(笑)。そしてコンセプトは「三つ星ラブソング」。アルバム『水色と空色』を中心に、曲・歌詞・アレンジの三つ星が揃ったラブソングを厳選して歌う。内容は、3曲ぐらいずつのブロックで構成するのも面白いかなと思ってる。例えば3曲ごとに「海」「夕方」みたいに場面が異なるとか、ブロックごとに主人公が変わっていくとか。まだ分からないけれど、いろいろ考えているところ。曲調はポップス寄りで、ミディアムテンポが多くなると思う。アップテンポやガンガンなロックは入らないかな……。もちろん十音楽団ではないからMCは普通にするし、ずっと座って観てもらう感じではないよ。純粋に、歌や音楽を楽しみに来てもらいたい。

———ただでさえラブソングの名曲が多いので、曲を絞るのも大変そうな気が(笑)。

F:そうなんだよ! なにしろ曲がいっぱいあるからなぁ。そこから厳選して、アルバム以外のセットリストをどう組んでいくかだね。ちなみに自分やディレクターが「これは三つ星でしょ」って思う作品は、みんなの思う三つ星とほぼ一致していると思ってる。ただ面白いのが、発売してみたら三つ星ということもあるんだよ。「ALIVE」なんかまさにそうで、蓋を開けてみたら作り手の予想を超えて、「えっ、そんなに好きだったんだ!」みたいな(笑)。だから人気の曲や売れた曲というのは、それ自体が星になったりもする。あとは、過去のアルバム曲で出来のいい名曲もあるから、そういう曲こそやりたいんだよね。もちろんメジャーな曲は入れるよ。初めて聴きに来てくれた人にも、聴いたことのある曲がいくつもあった方が楽しんでもらえると思うから。

———先日のNHK「SONGS」もかなり反響がありましたし、初めての方も含めて、多くの方にご覧いただきたいステージです。

F:もともと俺のライブは歌詞も聞き取りやすいから、初めて観る人やアルバムを聴いたことがない人でも、すんなり歌の世界に入りやすいはず。とくに今回はラブソングだから、ぜひカップルでも来てほしいという気持ちが強い。男性から見ると、女性ファンが多くてちょっと入りにくい気持ちは分かるんだけどね。でも今回はあんまりキャーキャー言わないコンサートだから大丈夫だよ、と言いたい。カラオケで俺の歌を歌う男性はすごく多いらしいから、リアルでもぜひ楽しんでもらえればと(笑)。ちなみに小田和正さんも、昔は圧倒的に女性ファンばっかりだったのが、今は夫婦とか男性も多い。ただ、うちの女性ファンが旦那を連れてこない理由として、キャーキャー弾けてる自分を見せたくないっていうのもあるらしい(笑)。

———たしかに、日常を忘れて非日常に浸りきる時間でもありますからね(笑)。ただ、おっしゃる通りツアーごとに雰囲気が違うので。まさに今回は、カップルにも非常におすすめと言えそうです。

F:若い頃は、男性から見ると、彼女や奥さんが男性アーティストにキャーキャー言ってお金を使うことへの抵抗もあったらしいけど。もう、お互い年齢を重ねてるからね! 旦那さんも、むしろ自由にライブに行ってもらう方が機嫌がいいから、「どうぞどうぞ行ってらっしゃい」と送り出される感じになっているらしい。ただ、できればそこからもう一歩進んで、一緒に来てもらうことで「そうか、こういうのを楽しんでいたんだ」と発見したり、体験を共有してほしいんだよね。だってラブソングには必ず、これまでの恋愛やパートナーとの思い出や感情とリンクするものがあるんだから。カップルで聴いてもらうことは、ごく自然で理想的な形なんだよ。二人でコンサートを観ること自体も、新たな共通の思い出になるしね。もちろん彼氏や旦那に限らず、男友達とか気になってる相手でもいいんだよ。ライブに誘って、帰りにご飯食べて、なんならこれを機に付き合うパターンも出てくるかもしれないし(笑)。

———若い時からずっとラブソングを歌ってこられましたが、今のフミヤさんにとってのラブソングとは?

F:そう。俺、ずっとラブソングと生きてきたんだよね。そもそも世の中にある歌の多くは、愛を歌っている。ジョン・レノンの「Imagine」みたいな、一人に対してではなく人類愛として世界平和を歌うものもあるけれど、ほとんどは恋愛。あとは仲間や家族に向かって歌うとか、応援歌やメッセージソングも、大きな括りでは愛の歌と言えるかもしれない。実を言うと、若い頃はあんまりストレート過ぎるラブソングには興味が持てなかった。もうちょっと社会性のあるものや、少々ひねりを利かせたものの方がカッコよく見える時期もあって。かといって、自分が当時そういうものばかり歌っていたわけではないんだけどね。でも今は、よりストレートに恋愛を描いてる。みんなが日々過ごしている日常があって、そこに何か響くものがあった時に感動したり癒されたりするわけじゃん。かつ、日本語で歌っているということは、日本の土壌に合った響き方がある。今の多くの日本人にとってのリアルは、戦場でもなければ水道のない場所でもない。もちろん曲によっては日本の一般社会とは違うシーンをあえて描く場合もあるけど、多くの人に響くのは、やはり王道のポップスやラブソングということになる。だから自分が作るものも、よりシンプルで本質的な感じになってきているんだと思う。

———メッセージを届ける手段はいろいろありますが、フミヤさんは歌という形で届けているわけですね。

F:人間って、なぜ歌うんだろうね(笑)。狩猟していた時代から、仲間に危険を知らせたり同じ群れの合図として、音階をつけた声は出していたんだろうけど。言葉ができてからも、どうしてメッセージをわざわざ歌にして伝えるかというと、やっぱり伝わりやすいし覚えやすいからだろうな。宗教の賛美歌とかもそうだし、お母さんが子供に歌うのもあるし。昔は録音技術なんてなかったから、音楽は生で聴くだけの、流れ去ってしまうものだったわけじゃん。だから人に伝えたり後世に残したりするためにも、歌うことが大事だったんだと思う。教会とかでは神への愛を歌うんだろうけど、街中の酒場ではやっぱり男女の恋愛を歌っていただろうね。店に人が集まってきて、そのうち誰かが自然に楽器を弾き始めて、誰かが歌い出すような感じ。大体どこの国にも、「そこの娘さん」とか「愛しい人よ」みたいな歌詞があるじゃん(笑)。そういう大衆的な歌の延長に、ポップスもあると思うんだよ。人間って基本的に歌うことが好きなんだと思う。俺はそうでもないけど、みんなカラオケ好きだもんなぁ。もちろんシャイだったり歌が苦手で歌わない人もいるけど、すっごい下手なのに歌うのが好きな友達もいる(笑)。もともとはスナックみたいな夜の店にあったのが、カラオケボックスが登場したことで健全な遊びになったよね。俺がリリースした時にいつも思うのは、歌を自分のものにしてもらうのが一番嬉しいということ。まずCDを聴いてもらって、自分でも口ずさむようになってほしい。さらに歌える人はカラオケで歌ってもらうのもいいし。好きな歌を歌うって、すごくいいことだと思う。

———覚えやすさや口ずさみたくなるキャッチーさは、ポップスの魅力のひとつでもありますよね。

F:そうなんだよ。自分でも若い頃から洋楽をあれこれ聴いてきたけれど、その中でも好きで記憶に残っているのは、いわゆる売れている曲ばっかりなんだよね。売れているということは、要は心に響いた人や聴いた人の数が多いし、耳に残る曲だということ。ポップスって、そういうものなんじゃないかな。それこそ海外には、例えば70年代に出した1曲だけが売れた一発屋、みたいな人が山ほどいる。その人が今も職業として歌い続けている場合は、その歌をずっと歌い続けていて、聴いた人も喜ぶ。それがヒット曲の宿命なんだよ。俺の場合は、せっかくヒット曲や名曲が1曲と言わず複数あるわけだから、歌い続けていくよ。「Special LoveSong」のツアーパンフレットにもちょっと書いたんだけど、ポップスの強みは幅広い表現ができること。俺はロックでも3拍子でもシャッフルでも歌うし、ダンスやパンクっぽい曲も歌う。そして一人称が「俺」でも「僕」でも、なんなら「私」でも歌えるじゃん。でもロックボーカリストだと、こうはいかないからね。自分もロックは好きだし憧れてはいたけれど、ロックシンガーというわけではなく、あくまで取り入れる程度。年齢によっても自分の意識は変化してきたけれど、今となってはポップシンガーでよかったし、ポップシンガーだからこそいろんな歌が作れてよかったなと思う。最近はもう堂々と「ポップシンガーです」って言うからね。

●2023年も止まることなく活動
 〜40周年アニバーサリーイヤー〜

———来年はデビュー40周年のアニバーサリーイヤーとなります。

F:今年は還暦だったけど、来年は40周年ということで、引き続きいろいろとやっていく予定。なんか最近、世間が昭和ブームや80年代ブームということもあって、妙にあちこちから声がかかるんだよね(笑)。テレビでもチェッカーズ時代のライブとかガンガン放送してるし、さらに俺は還暦も重なっているから、ネタには困らないという。あと、外部の音楽イベントに出ると、そこで俺を初めて知った若い世代から「初めて観てファンになりました」とか「一番良かったです」と言われて驚くことも多いんだよ。氣志團万博なんかも、あちこちで若い世代から嬉しい反響をもらった。今年もなんだかんだ、ずっと歌ってたなぁ。来年もSpecial LoveSongツアーから始まって、その後も止まることなく活動していくよ。

———2023年もファンの皆さんに楽しんでいただけそうですね。期待しています。

※インタビュー以降に内容に変更が生じている場合があります。ご了承ください。