
“藤井フミヤの唄の旅”、再び全国へ
4月に幕を開けた、“47都道府県コンサートツアー 2025-2026 FUTATABI”。
ライブを生み出して成長させていく楽しさ、それを観客に届ける喜び———それが、ステージからもインタビューからも伝わってくる。2周目となる全都道府県ツアーについて、今フミヤが感じていることを語ってもらった。

●「TRUE LOVE」や「Another Orion」だけじゃない藤井フミヤ
———ツアータイトル通り、再び47都道府県を訪れるツアーが始まりました。これまで何本か観ていますが、毎回あっという間に感じます。まだ序盤ではありますが、ここまでの感触はいかがですか。
フミヤ(以下F):今回は、初日からすごく出来がよかったんだよ。バンドもいいグルーヴだし、全体的に早めにいい形に仕上がっている。観ていてあっという間に感じてもらえるようなセットリストを作っているから、そう感じてもらえたなら成功だね。何本かやってみて大きな変更点はないけれど、実際の音を聴いて「もう少しこうしてみよう」「ここは前に出てみようか」と、バンドとちょこちょこ調整しているところ。まだ序盤だから、こなれ過ぎていない新鮮さはあるね。バンドに限らず、時間をかけて各チームが準備してまとめ上げたものを、実際に披露してみて気付くこともある。そもそも音響は会場によって違うし、セットも一から組み立てるわけだから、すべてのステージが生もの。これからまた公演を重ねるたびに馴染んで、ぴしゃっと隙間が埋まっていくと思う。セットリストも、40周年の続きのようでありながら7割以上が別の曲で、ストーリーや流れも違うからね。まったく別物という印象を受けるはず。前回入り切らなかった曲も今回ほぼ網羅できたし、うまいバランスで2ツアーのバリエーションを表現できたと思う。そこが見どころでもある。ツアー期間が長いから多少は変化があってもいいかもとも思うけど、ここまでベストなセットリストを作り込んじゃうと、なかなか変えにくいというのもあるんだよね。基本的には今の内容でやりながら、必要かどうか考えていくかな。とにかく、実際ツアーが始まってみたら、すごく評判もいいみたいでよかったよ! 歓声でリアルな反応も分かるし、SNSでの感想もいい感じだし。
スタッフ:ディレクターの倉中さんとも話してたんですけど、今回、フミヤさんのギターが素晴らしいんです。リズムの刻みも、しっかりとアンサンブルの一部として存在していて。
F:ギターは、ちゃんと練習したからね! 家でもストラップ付けて、マイクスタンド立ててさ。
———とくに初めて観る方やバラードの印象を持っている方にとっては、パフォーマンスや歌詞も含め、フミヤさんの幅広い世界に触れていただける内容だと感じました。
F:ああ、それはあるかも。前回以上に“「TRUE LOVE」や「Another Orion」だけじゃない藤井フミヤ”というのを楽しんでもらえると思う。初めての人こそ、「すげー! 藤井フミヤって、62歳でこんな感じなんだ」みたいな意外性とインパクトはあるかもしれないね(笑)。


●インスタで“旅している”感覚に
———今回、前ツアーに続いて2周目という感覚はありますか?
F:そうだね、自分でも“全国2周目”をしているという意識はすごくある。とくに前回初めて行った場所にまた行ける嬉しさもあるし、各地のイベンターに対しても「2周目だから、またよろしくね」と。二十代からお世話になっているイベンターも多いし、前回久しぶりに会えた人たちと再会できるのも楽しみ。でもさ、こっちは全都道府県に行くわけだけれど、お客さん側からすると一期一会なわけじゃん。コンサートというのは、ごく一般的には地元や近い都市で1回観るものであって、それ以上はありがたいプラスアルファだと考えている。もちろん、FFメンバーの中には何度もリピートしてくれる人も多くてありがたいけどね。だから当然こっちも毎回最高のステージを届けられるよう、一回一回を大切に全力でやるのみ。まだ先は長いけど、目に見えるように、日本地図で訪れた県を塗りつぶしていってる。確実に制覇していく感じはなかなか楽しいよ(笑)。
———あの魅力的なステージが全国の方に届くと思うと、スタッフとしても楽しみです。そして旅に伴い、各地でアップされているインスタグラムも好評です。
F:前回は余裕がなくて手が回らなかったけど、せっかくまた全都道府県に行くんだから今回はインスタも頑張ろう!と決めた。歌うために各地に行っているわけだけど、ああいう写真を撮ろうと意識することで、より一層“旅している”という感覚をちゃんと味わえている。だから、なるべくどこかに足を運ぶようにしているよ。例えば福井なら恐竜博物館に行くとか。前回より少しは日程に余裕があるから、短い時間でもその土地土地を楽しんでいる感じ。もちろん、全都道府県でやるというのは簡単なことじゃないけどね。常にネタを探している。
———現地ファンの方は、馴染みの場所にフミヤさんが訪れたことをインスタで見る喜びがありますよね。今後そこに行く楽しさも増しますし、アクスタを持っていっていただいてもいいわけですし。
F:ツアーが始まると、comu comuや外部のSNSでも盛り上がってくれるじゃん。あれは俺も嬉しいんだよ。ツアーTシャツやグッズをリメイクしている人もいて、見ていて面白い。俺もツアー中はいろんなところから発信するから、ぜひ一緒に楽しんでもらえればと。あと、いつものYouTube配信、F会もたまにやるし。
———ツアー中でもF会で繋がれる機会があるというのは、いいですよね。先日も「まさかツアー中にも配信してくれるとは」と喜んでくださっているお声がありました。
F:だってさ、すでにライブを観た人たちはその話で盛り上がれるけど、まだ半年先という人もいるわけだからね。それを考えると、F会みたいな機会はむしろ大事なんじゃないかと思ってる。とはいえネタバレはできないから、曲の話はできないんだけど(笑)。でもこのご時世、だいぶ先のライブまでセットリストを目にしないように過ごすのも、ものすごく大変というか工夫が要りそうだよなぁ。
———そうですね。初日からネットのニュースでも出ますし、セットリストのサイトもあります。個人がネットで書く場合の一般的な配慮としては、曲名や演出に触れる場合は最初に「ネタバレあり」と書いたりしますね。会報でも、ネタバレありのページに関してはタイトルに「ネタバレあり」と明示しています。もちろん、ライブを観た方がすぐに「よかった!」と周りに伝えてくださること自体は大歓迎という前提で。
F:そうだね。もちろんセットリストを見たいタイプの人は、見て予習してもいいとは思うけど。あとは、地元に来るのはまだまだ先という人も、それを待たずに遠征して観に来てくれてもいいわけだしね(笑)。今回は長丁場だけあって、体力維持のためにも余裕あるスケジュールで組んでもらったんだけど、その分、ペースを掴めてきたところで半端に間が空いてしまうこともある。夏もしばらく空くしね。もちろん詰まり過ぎているよりはずっといいんだけど。あと、バンドメンバーや会場のスケジュールもあるからさ。間が空くぐらいの日程じゃないと、あれだけのレベルのメンバーを1年以上もお願いできないよ。例えば、ライブでそのメンバーが必要というアーティストがいたら、そっちと重ならないように待つ必要もある。でも、うちは早い段階で「前回と同じメンバーで」とお願いしてスケジュールを押さえてもらったから、よかった。
———体調や体力も順調とのことで、なによりです。
F:うん、いい感じでやれている50歳ぐらいまでは、ライブが終わった後も少しはバッテリーが残っている感覚で余力があったんだよ。でももう今は、土日連続でライブだったらバッテリー残量ゼロ!みたいな。完全燃焼だね(笑)。とにかくベストコンディションでいるために、次のステージのために再充電する。そして、あっという間に次の週末が来る。ツアー中はその繰り返し。このまましっかり体調管理していきたい。

●アナログ、自然なもののほうが心が安定
———ご当地情報を集めるのにも、ChatGPTを使われているとか。
F:そう。各地の情報もChatGPTに聞いて調べたりしている。もちろん全部が正しいわけではないけれど、ほぼ何を聞いても答えてくれるから便利。画像とかもすぐ作れるわけだしね。しかし今後、イラストレーターとか映像編集とか、クリエイター系の職業が厳しいと言われているのは本当だろうな。例えば飲食店の看板やメニューも、ひと昔前なら業者に頼む必要があったけど、今やAIに「こんな感じで」と指示すれば作ってくれる。もちろんAIは既存のデータから何かを作り出すわけだから、プロのクリエイターならではのアナログな感性が必要とされる部分はあるとは思うけど。今後も、家を建てるみたいな肉体を使う仕事だけは、AIにできないからなくならないらしい。
———便利さもですが、人間相手ではないからこそ遠慮なく修正しやすいというのもありますね。例えば英会話のアプリなども、相手がAIだから間違えても恥ずかしくないというのが、とくに日本人には合うそうです。
F:たしかに、気持ち的にも楽っていうのはあるよね。「もっとこういう感じに変えて」と言えば、嫌な顔ひとつせず何度でも出し直してくれる。人間がやらなくていいことは任せて、便利で簡単にできるツールとして程よく活用するのはいいと思う。俺も、Macを早くに買ってCGに使っていたけれど、あれは素材に対してPhotoshopでフィルターやエフェクトをかけると絵が変わるということ自体が面白くてハマった。画像をイメージ通りに加工するという意味では、今の生成AIがやることを自分でやっていたような感じ。もちろん自分で「こうしたら、こうなるんだ!」と面白がりながらやるのが醍醐味でもあるんだけど。でも俺ってさ、昔はそうやって新しいものが大好きだったじゃん。Macでもaiboでも、かなり早く手に入れたり体験したりしていた。ところが最近はもう、そういう新しいものとか最新技術みたいなものへの興味がほとんどないんだよね。VRゴーグルも前に試したことはあるけれど、ほぼ体験してみただけで終わった。さすがに宇宙船の中に入った時はびっくりしたけどね。ゲーム好きな人なんかは没入できて楽しいんだろうな。武道館Blu-rayの特典だったVR映像も、いろんな角度で観られるのが好評だったみたいだし。うちの息子なんて最新機器や家電が大好きでさ、電気屋にずっといられるタイプ。VRも、視界に表示される情報をクリックしたりするようなものが出たら、すぐ買う!って言ってたけど(笑)。俺自身は、デジタルとか最新技術よりも、どちらかというとアナログやリアル、自然なものの方が心が安定する。
———アートでも、デジタルから始まってアナログに行き着きましたもんね。
F:早くからデジタルに触れていて、興味を持ったものをいろんな形で突き詰めてきた結果、今はアナログ派というね。それこそ、土いじりとかやった方が楽しいんじゃないかって思ってるぐらいだから(笑)。ゆっくり豆を挽いてコーヒーを淹れるとか、ハーブを育てるとか、今はそういうことの方が興味があるし面白い。年齢的なことや、単純にテクノロジーの変化や新しいものに付いていけなくなっているのもあるけどね(笑)。でも自分に限ったことじゃなく、コロナ以降の世界は価値観が変わって、畑や自給自足が大事という流れにシフトしてるからね。そういう流れも確実にあると思う。俺としては、あくまでもアナログな感覚を大事にしつつ、日常を便利にするためにChatGPTみたいなツールでデジタルを取り入れる程度がちょうどいい。
———配信時代に、ツアーで全都道府県の皆さんに会いに行くということも、リアルでアナログな行為と言えますね。
F:そう。やっぱりライブというのは生演奏や歌を観てもらうことであって、その場を味わうリアルさに意味がある。誰かアーティストの歌を、音源や映像で聴いたことがあるのと、一度でもその人のパフォーマンスを生で観たことがあるというのは全然違うじゃん。だから、ライブだけは音楽業界がいくら変化しても変わらない軸なんだよ。
———ファンの皆さんには、引き続き各地で、その日限りのパフォーマンスをお楽しみいただきたいと思います。
※インタビュー以降に内容に変更が生じている場合があります。ご了承ください。